銀行リスケ交渉の前に整えておくべき経営計画書の書き方

銀行リスケ交渉の前に整えておくべき経営計画書の書き方
資金繰りが厳しくなると、銀行への返済条件の見直し(リスケジュール)を検討する企業は少なくありません。しかし、銀行との交渉を成功させるには、単に「返済が厳しい」という訴えだけでは不十分です。銀行側が納得する経営計画書の準備が必須となります。
なぜ経営計画書が重要なのか
銀行がリスケジュールを承認するかどうかの判断基準は「この企業は将来的に立ち直れるのか」という点にあります。経営計画書は、あなたの会社が確かな再建能力を持っていることを証明する重要な書類なのです。
金融機関は漠然とした希望的観測ではなく、具体的な数字と実行可能な計画を求めています。適切な経営計画書があれば、銀行との信頼関係構築につながり、リスケ交渉を有利に進められるでしょう。
経営計画書に盛り込むべき5つの要素
1. 現状分析と課題の明確化
現在の経営状況を正確に分析することから始めましょう。
– 財務状況(売上・利益・キャッシュフローの推移)
– 市場環境と競合分析
– 自社の強みと弱み
– 現在直面している具体的な課題
数字を用いて客観的に現状を説明し、なぜ資金繰りが厳しくなったのかを論理的に説明することが重要です。問題を隠さず、正直に伝えることで信頼を得られます。
2. 再建のための具体的な施策
現状の課題に対して、どのような対策を講じるのかを具体的に記載します。
– コスト削減策(人件費、家賃、外注費など具体的な数字で)
– 売上拡大策(新規顧客開拓、既存顧客への追加販売など)
– 不採算事業の整理や高収益事業への集中
– 組織改革や業務効率化の方法
「〇〇を見直します」といった曖昧な表現ではなく、「人件費を現状比15%削減」「固定費を月額〇〇万円削減」など、具体的な数字を示しましょう。
3. 実現可能な収支計画
今後3〜5年間の収支予測を作成します。以下の点に注意しましょう:
– 売上予測は過度に楽観的ではなく現実的な数字を
– 費用削減の効果を段階的に反映させる
– 季節変動を考慮した月次の資金繰り表
– リスケ後の返済計画と返済原資の明確化
特に重要なのは「返済原資」の明確化です。どの事業からどれだけのキャッシュが生み出され、それをどう返済に充てるのかを具体的に示すことで、返済能力を証明できます。
4. 実行スケジュールとマイルストーン
計画の実行スケジュールを時系列で示し、いつまでに何を達成するのかを明確にします。
– 四半期ごとの目標設定
– 重要な施策の実施時期
– 進捗確認のタイミング
– 想定される結果(KPI)
例えば「第1四半期:組織再編と人員最適化、第2四半期:新規営業体制の構築」など、段階的な計画を示すことで実行力をアピールできます。
5. リスク分析と代替案
計画通りに進まない場合のリスク要因と対応策も盛り込みましょう。
– 想定されるリスク要因の列挙
– 売上が計画を下回った場合の対応策
– 追加の資金調達策
– 最悪のシナリオとその対処法
リスクへの備えを示すことで、経営者としての冷静な判断力と危機管理能力をアピールできます。
経営計画書作成の実務的なポイント
数字は裏付けのあるものを使用する
根拠のない売上予測や費用削減案は信頼性を損ねます。過去のデータや市場調査、同業他社との比較など、可能な限り客観的な根拠を示しましょう。
ビジュアル資料を効果的に活用
グラフや図表を用いて視覚的に分かりやすく表現することで、銀行担当者の理解を助けます。特に以下のようなデータは視覚化が効果的です:
– 売上・利益の推移と予測
– 資金繰り表
– 組織図の変更
– 事業ポートフォリオの見直し
経営者の決意表明を含める
数字やデータだけでなく、経営者としての決意や姿勢も重要です。再建に向けた強い意志と具体的な自己犠牲(役員報酬の削減など)を示すことで、銀行の信頼を得られます。
経営計画書作成時の一般的な失敗例
過度に楽観的な予測
現実離れした売上予測や急激な業績回復を見込んだ計画は、銀行の信頼を失います。保守的かつ現実的な数字設定を心がけましょう。
具体性の欠如
「営業強化」「経費削減」などの抽象的な表現だけでは不十分です。「営業担当2名増員による新規顧客月5社獲得」「事務所移転による家賃月10万円削減」など、具体的な数字と方法を示しましょう。
返済能力の説明不足
リスケジュールの本質は「返済できる体制の構築」です。どのようにして返済原資を確保するのかを明確に説明できなければ、リスケ承認は難しくなります。
専門家の活用を検討しよう
経営計画書の作成は、中小企業診断士や税理士などの専門家のサポートを受けることも有効です。専門家は以下のような点でサポートしてくれます:
– 財務分析と課題の整理
– 実現可能な再建計画の策定
– 銀行が重視するポイントの助言
– 計画書のブラッシュアップ
外部の専門家の意見を取り入れることで、経営者の思い込みを排除し、より客観的で説得力のある経営計画書を作成できます。
まとめ
銀行とのリスケジュール交渉は、単なる資金繰りの相談ではなく、「事業の再建可能性をどう証明するか」という経営者としての真価が問われる場です。綿密に構築された経営計画書は、単なる交渉資料にとどまらず、今後の経営の道しるべとなる大切なツールでもあります。
経営計画書の作成を通じて、経営状況を客観的に把握し、再建への覚悟と道筋を明確にすることが、結果として銀行からの信頼獲得に繋がります。リスケ交渉を成功させるには、以下の点を改めて意識しましょう:
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数字と根拠に基づいた「現実的な計画」であること
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実行可能な施策と具体的なマイルストーンが設定されていること
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「返済可能性」が明確に説明されていること
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万一のリスクにも備えた柔軟な対応策があること
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経営者としての「覚悟」が伝わること
リスケはあくまで一時的な支援に過ぎません。本当に大切なのは、その支援期間をどう活かして経営を立て直すかという姿勢です。単なる延命措置ではなく、再生への第一歩として、誠実で実行力ある計画づくりを心がけましょう。
【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸
公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了