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2026年02月25日

経営者インタビュー:事業再生から学んだ本当に効く戦略立案のコツ

事業再生

経営環境が激しく変化する現代において、多くの経営者が「策定した戦略が現場で実行されない」「数字の改善が進まない」という課題に直面されています。特に、事業の立て直しが急務となる局面では、わずかな判断の遅れや曖昧な指示が企業の命運を左右することさえあります。

本記事では、実際に倒産の危機から見事なV字回復を成し遂げた経営者へのインタビューを通じて、事業再生の過酷な現場だからこそ見えてきた「本当に効く戦略立案のコツ」を深掘りします。教科書的な理論や机上の空論ではなく、社員の心を動かし、組織の熱量を取り戻すために実践された具体的なアプローチとは、一体どのようなものだったのでしょうか。

「捨てる勇気」を持って選択と集中を行い、強固な事業基盤を再構築したリアルな成功事例は、現在再生フェーズにある企業だけでなく、さらなる成長を目指す平時の経営においても極めて重要な示唆を与えてくれます。経営の舵取りに迷いを感じている方や、現場の実効性を高めたいと考えているリーダーの方にとって、明日からの意思決定をより確かなものにするヒントとなれば幸いです。

1. V字回復を実現した経営者が語る、現場で最優先すべき3つの判断基準

赤字続きの事業を立て直し、鮮やかなV字回復を遂げる経営者には共通する思考回路が存在します。倒産寸前の危機的状況から組織を再生させた数多くのリーダーたちへの取材を通して見えてきたのは、教科書的なMBA理論とは一線を画す、極めて実践的でシビアな「現場の判断基準」でした。

事業再生のフェーズにおいて、戦略立案時に何よりも優先すべき3つの基準について解説します。

1. 「利益」よりも「キャッシュフロー」を最優先する**

平時の経営ではPL(損益計算書)上の売上や利益目標が重視されがちですが、再生の現場において最優先されるのは間違いなく「キャッシュ(現金)」です。黒字倒産という言葉があるように、帳簿上で利益が出ていても手元に現金がなければ企業は存続できません。

V字回復を実現した経営者は、すべての施策を「それは現金を増やすのか、減らすのか」「いつ現金化されるのか」という基準でジャッジします。例えば、回収サイトの長い大型案件よりも、小規模でも即金性の高い取引を優先したり、将来の利益を生むかもしれないが現在はキャッシュアウトを伴う投資を凍結したりする決断です。生存期間を延ばし、反撃の機会を作るためには、キャッシュフローの最大化こそが絶対的な正義となります。

2. 「強み」以外は徹底して「捨てる」決断**

戦略とは「何をするか」を決めること以上に、「何をしないか」を決めることであるとよく言われますが、事業再生においてはこの原則がより顕著になります。リソースが枯渇している状況で全方位的な戦略をとれば、共倒れになるのは明白だからです。

成功する経営者は、自社が市場で勝ち残れる唯一無二の「強み」や、収益性の高いコア事業を特定し、それ以外の不採算部門や非効率な業務を徹底的に切り捨てます。これは痛みを伴う判断ですが、選択と集中を徹底することで、残されたリソースを一点突破のエネルギーに変えることができます。顧客にとって「代替不可能な価値」を提供できる領域にのみ特化することが、V字回復への最短ルートとなります。

3. 「完璧な計画」より「スピードと修正力」**

事業再生の現場では、状況が刻一刻と変化するため、時間をかけて完璧な計画を練り上げている余裕はありません。V字回復を成し遂げる組織では、7割の完成度でも実行に移し、市場の反応を見ながら高速で修正を繰り返す「アジャイル型」の動きが徹底されています。

机上の空論で議論する時間を極限まで減らし、顧客の反応という事実(ファクト)に基づいて意思決定を行う。このスピード感こそが、競合他社を出し抜き、沈滞した社内の空気を変える原動力となります。「走りながら考える」姿勢が、結果として精度の高い戦略へと昇華されていくのです。

2. 机上の空論で終わらせない、社員の心を動かす実行型プランの作り方

どんなに論理的で完璧な経営戦略を策定しても、それが現場で実行されなければ、企業再生や成長は望めません。多くの企業で戦略が「絵に描いた餅」に終わってしまう最大の原因は、経営層が見ている景色と現場社員の実感との間に大きな乖離があることです。コンサルタントが作成した数百ページに及ぶ資料よりも、社員一人ひとりの腹落ち感を重視することが、実行型プランへの転換点となります。

現場を動かすために必要なのは、難解なKPIや財務目標の羅列ではなく、その戦略を実行することで「自分たちの仕事や顧客への提供価値がどう変わるのか」という具体的なストーリーです。数字はあくまで結果であり、行動の動機にはなりにくいものです。事業再生の成功事例として知られる日本航空(JAL)の再建においても、稲盛和夫氏はまず全社員の意識改革に着手しました。部門別採算制度(アメーバ経営)という仕組みの導入と同時に、社員としてのあり方や哲学を共有する「JALフィロソフィ」を浸透させたことで、一人ひとりが経営者意識を持ち、自律的にコスト削減やサービス向上に取り組む組織へと生まれ変わりました。

このように、戦略を現場レベルまで落とし込むには、経営用語を「現場の言葉」に翻訳するプロセスが不可欠です。例えば、「EBITDAの最大化」と叫ぶのではなく、「お客様の笑顔を一つでも多く作るために、無駄な作業を減らして接客時間を増やそう」と伝えるのでは、社員のモチベーションに雲泥の差が生まれます。

また、実行段階においては、完璧さを求めすぎないことも重要です。最初から100点を目指して計画をガチガチに固めるよりも、60点の出来でも素早く実行に移し、現場からのフィードバックを受けて修正を繰り返す「アジャイル型」の進行が現代のビジネス環境には適しています。小さな成功体験(クイックウィン)を早期に作り出し、「自分たちの行動で会社が変わっていく」という実感を社員に持たせることが、持続的な実行力を生み出す鍵となります。

結局のところ、本当に効く戦略とは、机の上で計算された最適解ではなく、社員の心が動き、思わず身体が動いてしまうような「熱を帯びたプラン」なのです。経営者は分析者である前に、情熱の伝道師でなければなりません。

3. 窮地を救ったのは「捨てる勇気」でした。選択と集中のリアルな成功事例

経営危機に直面した際、多くのリーダーが陥る罠があります。それは「売上を落としたくない」という一心で、すべての事業や商品を維持しようとすることです。しかし、私たちがどん底から這い上がれた最大の要因は、逆説的ですが「売上を捨てる覚悟」を決めたことにありました。

当時の社内データを入念に分析すると、全品目のうち上位20%の商品が利益の80%を生み出しているという、典型的な「パレートの法則」が当てはまっていることが判明しました。一方で、残りの80%の商品は売上への貢献度が低いばかりか、在庫管理や営業工数といったリソースを過剰に消費し、組織全体の利益率を圧迫していたのです。そこで断行したのが、不採算部門からの完全撤退と、商品ラインナップの50%削減でした。

長年の取引先や開発に関わった従業員の感情を考えると、身を切られるような痛みがありました。しかし、経営資源には限りがあります。すべてを救おうとすれば共倒れになるのが明白な状況下で、私たちは「自社が最も得意とし、市場で勝てる領域」一点にヒト・モノ・カネを集中させました。これを「ランチェスター戦略」の視点で見れば、弱者が強者に勝つための局地戦へ持ち込んだとも言えます。

不採算事業を切り離したことで固定費は劇的に下がり、浮いたリソースを主力事業の品質改善とマーケティングに投下しました。その結果、顧客満足度が向上し、既存顧客からのリピート率が急上昇しました。撤退からわずか半年後にはキャッシュフローが改善し、単月黒字化を達成することができたのです。

事業再生の現場で学んだ真実は、戦略とは「何をするか」以上に「何をしないか」を決めることだということです。捨てる勇気こそが、組織を筋肉質に変え、再成長への活路を開く鍵となります。あれもこれもと抱え込むのではなく、強みに特化する「選択と集中」こそが、不確実な時代を生き抜くための最強の生存戦略なのです。

4. 数字の改善だけでは足りない?組織の熱量を取り戻すコミュニケーション術

事業再生のフェーズにおいて、多くの経営者はまず財務諸表の改善に着手します。不採算事業からの撤退、コストカット、キャッシュフローの確保。これらは出血を止めるための「外科手術」として絶対に必要な工程です。しかし、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)がきれいになっただけで、会社が自動的に成長軌道に戻るわけではありません。むしろ、徹底的なコスト削減によって現場が疲弊し、組織全体が「やらされ仕事」のムードに覆われてしまうリスクすらあります。

本当に効く戦略立案には、論理的な正しさ(ロジック)だけでなく、実行部隊である社員の感情(エモーション)に火をつけるプロセスが不可欠です。数字は嘘をつきませんが、数字だけでは人は動かないのです。

組織の熱量を取り戻すために経営者が実践すべきコミュニケーション術として、最も重要なのは「情報の透明化」と「対話の量」です。会社が今どのような危機的状況にあり、なぜその痛みを伴う改革が必要なのか、そしてその先にはどのような未来が待っているのか。これらを包み隠さず共有することで、従業員の中に当事者意識が芽生えます。トップダウンで「売上目標〇億円」と指示するのと、「このままだと半年後に資金が尽きる。生き残るために全員でこの山を越えたい」と腹を割って話すのとでは、現場の反応は天と地ほど異なります。

かつて経営破綻から奇跡的なV字回復を遂げた日本航空(JAL)の事例は、まさにこの「意識改革」の重要性を証明しています。稲盛和夫氏が主導した再生プロセスでは、アメーバ経営による採算管理の徹底と並行して、「JALフィロソフィ」の策定と浸透に膨大なエネルギーが割かれました。経営幹部から現場のスタッフに至るまで、徹底的な対話集会や勉強会を通じてベクトルを合わせ、従業員の心に誇りと主体性を取り戻したことが、あの劇的な復活の原動力となったのです。

具体的なアクションとしては、全社員集会(タウンホールミーティング)を定例化し、経営者の生の言葉を届けることが有効です。また、現場レベルではマネージャーによる1on1ミーティングの質を高め、個人のキャリアビジョンと会社の方向性をすり合わせる作業も欠かせません。

戦略とは、描くだけでは画餅です。それを実行するのは「人」であり、人のパフォーマンスを最大化するのは「熱量」です。優れた経営者は、緻密な計算式と同じくらい、社員との泥臭いコミュニケーションを大切にしています。組織の心理的安全性を確保し、前向きな挑戦を称賛する文化を築くことこそが、再生から成長へとシフトするための最強の戦略となるのです。

5. 平時の経営にも応用できる、危機管理から生まれた強固な事業基盤の構築法

事業再生の現場は、まさに時間との戦いです。資金が底をつく前に止血し、収益構造を根本から変えなければなりません。極限状態で磨かれたこれらの意思決定プロセスや組織運営のノウハウは、実は平時の経営においてこそ、圧倒的な競争力を生み出す源泉となります。危機管理から生まれた手法を日常業務に落とし込むことで、外的ショックに揺るがない強固な事業基盤を構築することが可能です。

まず取り入れるべきは、「キャッシュフロー至上主義」の徹底です。多くの企業がPL(損益計算書)上の利益を重視しがちですが、再生の現場では「現金」こそが生命線です。黒字倒産のリスクを常に意識し、回収サイトの短縮や在庫回転率の向上、遊休資産の現金化を日常的に行う習慣をつけることで、投資余力が生まれ、攻めの経営が可能になります。この財務体質の強化こそが、不況時でもチャンスを掴める企業の共通点です。

次に、「聖域なきコスト構造の見直し」と「固定費の変動費化」です。危機的状況では、すべての経費が必要性を問われます。これを平時から行い、固定費を限界まで下げて損益分岐点を引き下げておくことは、利益率の向上に直結します。アウトソーシングの活用や業務プロセスのデジタル化(DX)により、市場の変化に合わせて柔軟にコストをコントロールできる体制を作ることが、リスク耐性の高い組織へと進化させます。

また、組織面においては「バッドニュース・ファースト(悪い知らせほど早く報告する)」の文化醸成が不可欠です。事業再生が必要になる企業の多くは、現場の不都合な真実が経営層に届かず、対応が遅れた結果として危機を招いています。心理的安全性を確保し、ミスやトラブルを隠さずに共有できる風通しの良い組織を作ることは、早期の課題発見と迅速な意思決定を可能にします。これはコンプライアンス遵守の観点からも極めて重要です。

最後に、コアコンピタンス(自社の中核的な強み)への集中です。再生局面では、不採算事業からの撤退と、勝てる領域への資源集中が断行されます。平時であっても、自社のリソースが分散していないか、本当に強みを発揮できる分野に人材と資金が投下されているかを定期的に点検する必要があります。多角化はリスクヘッジになりますが、強みのない多角化は経営資源の浪費に過ぎません。

「最悪の事態」を想定して準備された経営基盤は、平時には「最高のパフォーマンス」を発揮するための土台となります。危機感を持って日々の業務を最適化し続けることこそが、永続的な成長を実現する最も確実な戦略なのです。

【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸

公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了

事業が厳しいと感じたら、早めの決断が重要です。
最適な再生戦略を一緒に考え、実行に移しましょう。