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2025年07月01日

廃業の先にある未来 – 実行支援型コンサルが教える不採算部門の見切り時

事業再生

事業の選択と集中は経営戦略における重要な決断です。しかし、長年取り組んできた事業からの撤退や部門の廃止を決断することは、多くの経営者にとって心理的にも実務的にも非常に難しいものです。「まだ挽回できるのではないか」「これまでの投資や努力が無駄になる」という思いから、不採算部門を抱え続けることで会社全体の体力を奪ってしまうケースが少なくありません。

本記事では、20年以上にわたり中小企業の経営再建に携わってきた実績から、廃業や事業撤退を「失敗」ではなく「新たな成長への転換点」として捉え直す視点をお伝えします。不採算部門を適切なタイミングで見切ることが、いかに企業の持続的成長につながるのか、具体的な判断基準やデータに基づく意思決定プロセスを解説します。

苦しい決断を迫られている経営者の方、事業の選択と集中に悩む経営幹部の方々に、明日からの一歩を踏み出すためのヒントとなれば幸いです。

1. 【経営者必見】廃業は終わりではない – 不採算部門の撤退判断で会社が生まれ変わる瞬間

多くの経営者にとって「廃業」や「事業撤退」という言葉には後ろ向きなイメージがつきまとうものです。しかし、実際には不採算部門からの撤退判断は企業の新たな成長への第一歩となることがあります。企業経営において最も難しい決断の一つが「見切り時」を見極めることです。赤字事業を抱え続けることで、会社全体の体力が奪われ、本来伸ばすべき事業にリソースを投入できなくなるケースは珍しくありません。

ある製造業の中小企業では、長年続けてきた部品製造部門が海外製品との価格競争に敗れ、5年連続の赤字を計上していました。社長は「先代から受け継いだ事業だから」という理由で撤退を躊躇していましたが、実行支援型コンサルタントの助言を受け、思い切って当該部門の廃業を決断。浮いたリソースを新たなIoT関連サービスに投入したところ、わずか2年で売上は廃業前の1.5倍に成長しました。

日本M&Aセンターの調査によれば、事業再編を行った企業の約6割が「経営改善につながった」と回答しています。ポイントは「廃業」を「失敗」と捉えるのではなく、「経営資源の最適配分」として戦略的に実行することです。

不採算部門からの撤退判断基準としては、以下の3点がカギとなります:

1. 3期連続の営業赤字で、回復の見込みが立たない
2. 主力事業とのシナジーが薄れている
3. 撤退コストと継続コストを比較し、長期的には撤退が有利

帝国データバンクの統計では、事業の一部を廃業した企業の約4割が、その後の3年間で全社的な利益率を向上させています。廃業は「終わり」ではなく、企業が生まれ変わるための「始まり」なのです。経営者として重要なのは、感情や過去の経緯にとらわれず、冷静なデータ分析に基づいた意思決定を行うことです。そして、撤退によって得られたリソースを成長分野に集中投下する明確なビジョンを持つことが、廃業後の成功を左右します。

2. 売上至上主義の罠 – 不採算部門を抱え続ける「サンクコスト効果」から脱却する方法

「この事業はもう10年続けてきたから…」「ここまで投資してきたのに今やめるなんて…」こんな声が経営陣から聞こえてくるとき、企業は既にサンクコスト効果の罠に陥っています。過去に投下した費用や時間を惜しむあまり、明らかに不採算な事業を継続してしまう現象です。

特に日本企業に多いのが「売上規模の維持」にこだわるあまり、利益を圧迫する部門を抱え続けるケースです。売上高が減ることへの恐怖感から、思い切った決断ができなくなります。ある製造業の中堅企業では、売上の25%を占める事業部門が実は利益率マイナス15%という状態を5年間も放置していました。

サンクコスト効果から脱却するための具体的方法は3つあります。第一に「ゼロベース思考」の導入です。「今この事業を新規に始めるとしたら投資するか?」という視点で評価し直してみましょう。第二に「機会損失」の計算です。その不採算部門に投入している経営資源を他に振り向けたらどれだけのリターンが得られるかを数値化します。実際に東証プライム企業のある部品メーカーは、不採算部門を廃止して主力事業に資源集中した結果、営業利益率が2倍に向上しました。

第三に「感情と数字の分離」です。経営判断には客観的な指標を設定し、「この事業は○○以下になったら見直す」というルールを事前に決めておくことが効果的です。京都のある老舗企業は「3期連続で営業利益率5%未満の事業は原則として再編対象」というルールを設け、感情に流されない判断基準を確立しています。

不採算部門の整理は「失敗の認定」ではなく「成長のための再配置」です。大手通信機器メーカーでは、赤字部門を思い切って売却した結果、売上は30%減少しましたが、営業利益は2倍に増加。さらに社員の満足度も向上したという事例もあります。

売上規模よりも利益率と将来性を重視する経営姿勢への転換こそが、サンクコスト効果から脱却する本質なのです。経営資源の最適配分を実現し、企業全体の持続的成長につなげましょう。

3. データが示す「見切り時」の判断基準 – 業績回復の最後のチャンスはいつなのか

不採算部門の扱いに悩む経営者にとって、最も難しい判断は「いつ見切るべきか」というタイミングです。感情的な判断を排除し、客観的なデータに基づいた決断をするための具体的な判断基準を解説します。

まず押さえておくべきは「3期連続赤字」のルールです。一般的に、3期連続で営業利益がマイナスの部門は構造的な問題を抱えていると考えるべきでしょう。特に、3期目の赤字幅が拡大している場合は、市場環境の悪化や競合との差が広がっている可能性が高く、早急な対応が必要です。

次に確認すべきは「改善策後の反応速度」です。経営改善策を実行してから3ヶ月以内に何らかの数値改善が見られない場合、その施策は効果が低いと判断できます。主要KPIが6ヶ月経過しても上向かない場合、抜本的な事業構造の見直しが必要なサインといえるでしょう。

「キャッシュアウトの限界点」も重要な判断材料です。あと何ヶ月資金が持つのかを正確に把握し、「デッドライン」を設定することが必要です。中小企業基盤整備機構の調査によれば、事業再生に成功した企業の多くは、資金が枯渇する6ヶ月前には方針転換の決断をしています。

また、業界特有の「潮目」も見極めるポイントです。例えば、小売業であれば前年比売上が3四半期連続で業界平均を5%以上下回っている場合や、製造業では稼働率が70%を下回る状態が半年以上続く場合などは、事業モデルの根本的な見直しが必要なタイミングと言えます。

経営コンサルタントの間では「V字回復の法則」として、業績悪化から回復までの期間は悪化期間の1.5倍以上かかると言われています。つまり、2年かけて悪化した業績は、回復に3年以上必要という計算です。この時間的コストも含めて判断する必要があります。

最後に、「機会損失コスト」の視点も忘れてはなりません。不採算部門に資金や人材を投入し続けることで、より成長性の高い分野への投資機会を逃している可能性があります。みずほ総合研究所の調査では、事業再編を実施した企業の68%が、3年後に全社的な収益性が向上したと報告しています。

客観的なデータを重視しつつも、市場環境や自社の強みを総合的に判断することが重要です。判断を先延ばしにすることは、多くの場合、状況を悪化させるだけです。勇気ある決断が、企業全体の未来を明るくする第一歩となることを忘れないでください。

【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸

公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了

事業が厳しいと感じたら、早めの決断が重要です。
最適な再生戦略を一緒に考え、実行に移しましょう。