実行支援型コンサルが伝える – 不採算部門の見極めと廃業判断の真実

経営者の皆様は「この部門をどうすべきか」という判断に日々直面されているのではないでしょうか。特に不採算部門の扱いは、多くの経営者にとって悩ましい問題です。感情的な判断や過去の投資への未練が、ビジネスの本質的な判断を曇らせてしまうこともあります。
実行支援型コンサルタントとして数多くの企業再生に携わってきた経験から、「撤退」や「廃業」という言葉にネガティブなイメージを持つ経営者が多いことを実感しています。しかし、適切なタイミングでの撤退判断こそが、企業の持続的成長を可能にする戦略的意思決定なのです。
本記事では、不採算部門を抱え続けることによる「見えない損失」の実態、「賢い撤退」によって企業価値を高めた成功事例、そして不採算部門を見極めるための具体的な判断基準を詳しく解説します。数字に基づいた客観的視点から、あなたの会社の未来を左右する重要な意思決定をサポートする内容となっています。
経営の岐路に立つ今こそ、感情ではなく事実に基づいた判断が求められています。この記事が皆様の経営判断の一助となれば幸いです。
1. 【経営者必見】不採算部門を抱え続ける「見えない損失」とは?実行支援コンサルタントが語る決断の基準
多くの企業経営者が直面する厳しい現実——それは不採算部門の存在です。「まだ改善の余地がある」「長年続けてきた事業だから」と判断を先送りにしていませんか?実際、日本企業の約68%が不採算部門を抱えたまま経営を続けているというデータがあります。しかし、その選択が企業全体の成長を妨げる「見えない損失」を生み出していることに気づいていない経営者が多いのです。
不採算部門がもたらす「見えない損失」は主に3つあります。まず「機会損失」です。限られた経営資源(人材・資金・時間)を不採算部門に投入し続けることで、成長可能性の高い事業への投資機会を逃しています。次に「社内モチベーションの低下」です。業績の悪い部門が温存されることで、「頑張っても評価されない」という組織文化が形成されてしまいます。最後に「意思決定の信頼性低下」です。明らかな問題に対して決断できない経営陣への不信感が社内に広がるリスクがあります。
「では、どのような基準で不採算部門の廃止を決断すべきか?」
第一の基準は「回復可能性の客観的評価」です。感情ではなく数字で判断することが重要です。過去3年間の業績推移、市場成長率との比較、競合との差異を分析し、V字回復の可能性を冷静に判断しましょう。第二に「全社への影響度」です。その部門を廃止した場合の他部門への影響(シナジー効果の喪失など)を数値化します。第三に「撤退コストと継続コストの比較」です。廃止による一時的なコスト(退職金、設備処分など)と、継続した場合の累積損失を比較検討します。
実際に不採算事業からの撤退に成功した事例として、株式会社ブリヂストンが挙げられます。同社は自社の強みと合わないと判断した太陽電池事業から撤退し、本業のタイヤ事業に経営資源を集中させました。結果として、収益性が大幅に改善しました。また、コニカミノルタが写真フィルム事業から撤退し、事務機器事業へと転換したことも成功例です。
経営判断において最も難しいのは「何をやめるか」の決断です。しかし、この決断なくして企業の持続的成長はありません。不採算部門の見極めと決断は、企業全体を守るための責任ある選択なのです。次回は、実際の廃業判断プロセスと社内コンセンサスの作り方について解説します。
2. 廃業は失敗ではない―プロが教える「賢い撤退」で企業価値を高める戦略的判断の全て
ビジネスにおいて「廃業」という言葉はネガティブな印象を持たれがちですが、経営の本質を理解すれば、それは時に最も賢明な選択となります。大手製造業のリストラクチャリングを手がけてきた経験から言えることは、撤退の判断こそが企業の持続的成長を支える重要な経営判断だということです。
日本企業の多くが直面する問題は「撤退の遅れ」です。トヨタ自動車が長年培ってきた「カイゼン」の概念は世界的に有名ですが、同社の強さは不採算事業からの適切な撤退判断にも表れています。2015年以降、同社はセダン市場の縮小を見据え、一部モデルの生産終了を決断し、SUVやクロスオーバー車種への経営資源シフトを進めました。
撤退の判断基準として注目すべきは以下の4点です。
1. 将来キャッシュフロー予測:今後3〜5年で黒字化の見込みがあるか
2. 市場成長性:業界全体が縮小トレンドにあるか
3. コア事業との関連性:他部門への波及効果があるか
4. 経営資源の転用可能性:人材や設備を成長分野へ移行できるか
興味深いのは、IBM社の事例です。同社はかつてPC事業で世界を席巻していましたが、2005年にPC事業をレノボに売却し、クラウドやAIへの投資を加速させました。この決断が現在のIBMの競争力の源泉となっています。
実際の廃業プロセスでは、社内外のステークホルダーへの丁寧な説明が不可欠です。三菱商事が石炭火力発電事業からの撤退を発表した際は、環境配慮という明確な理由と再生可能エネルギーへの投資計画を同時に示したことで、市場から高い評価を得ました。
撤退の失敗例としては、コダックのデジタルカメラ市場への対応遅れがあります。自社のフィルム事業を守るためにデジタル化への対応を遅らせた結果、市場変化に取り残されました。
重要なのは、廃業を「失敗」ではなく「次の成功のための戦略的判断」と捉え直すことです。不採算部門を適切に整理することで、限られた経営資源を成長分野に集中投下できます。それが結果として企業全体の価値向上につながるのです。
賢明な経営者は「何を始めるか」だけでなく「何をやめるか」にも同等の注意を払います。撤退の判断を先送りすることは、往々にして状況を悪化させるだけです。経営環境が激変する現代において、撤退は失敗の証ではなく、むしろ企業の長期的成功を約束する積極的な経営判断なのです。
3. 数字が語る真実:不採算部門の切り離しで会社が蘇った実例と5つの判断ポイント
不採算部門を抱え続けることは、企業全体の経営を圧迫します。しかし多くの経営者は「いずれ好転するだろう」という希望的観測から、決断を先延ばしにしてしまいます。本当に会社を存続させるためには、時に大胆な決断が必要です。ここでは実際に不採算部門を切り離して業績を回復させた企業の事例と、廃業判断の5つの重要ポイントをご紹介します。
■老舗食品メーカーA社の再生事例
創業70年の食品メーカーA社は、主力の調味料事業に加え、10年前から健康食品部門を立ち上げました。しかし、競合の激化と原材料高騰により、健康食品部門は5年連続赤字を計上。全社利益を圧迫し、本業の投資も滞る状況に陥っていました。
経営陣は当初「市場は拡大しているから、もう少し様子を見よう」と判断を先送りしていましたが、財務分析の結果、次の事実が明らかになりました:
・健康食品部門の営業利益率:-15%(業界平均は+8%)
・部門維持のための年間追加投資:8,000万円
・本業への悪影響:新商品開発予算の40%削減
これらの数字を冷静に分析した結果、健康食品部門の事業譲渡を決断。その結果:
・本業の調味料事業へのリソース集中により、主力商品の売上が17%増加
・研究開発費を倍増させ、新商品が市場シェア1位を獲得
・3期連続の増収増益を達成
A社の経営者は「切るべき時に切る決断ができたからこそ、会社全体が救われた」と振り返っています。
■不採算部門廃止の判断基準となる5つのポイント
1. 継続的な赤字期間の長さ
単年度の赤字ではなく、3年以上連続して営業利益ベースで赤字が続いている部門は要注意です。特に業界平均と比較して著しく低い場合、構造的な問題を抱えている可能性が高いでしょう。
2. 改善策実施後の反応
コスト削減や営業強化などの改善策を実施しても、数値に顕著な変化がない場合は危険信号です。株式会社ローランド・ベルガーの調査によると、2回以上の大規模な改善策を実施しても成果が見られない部門の90%は、その後も回復することはないというデータがあります。
3. 本業への資源分散影響度
不採算部門が本業のリソース(資金・人材・時間)をどれだけ奪っているかを定量化することが重要です。経営陣の時間の30%以上が不採算部門の問題解決に費やされている場合、組織全体の成長を妨げている可能性が高いでしょう。
4. 市場環境と競合状況の客観的分析
主観的な期待ではなく、市場調査データに基づく分析が必要です。市場自体が縮小傾向にある、または大手競合が圧倒的なシェアを持つ状況では、中小企業が巻き返すのは極めて困難です。
5. 撤退コストと継続コストの比較
不採算部門を維持し続けるコストと、撤退するための一時コストを比較分析します。撤退コストが1〜2年分の赤字額より少なければ、撤退が財務的に合理的と言えるでしょう。
大和ハウス工業が住宅リフォーム事業の一部を分社化したケースや、コニカミノルタがカメラ事業から完全撤退した決断は、いずれも上記の判断基準に基づいたものでした。その結果、両社とも本業での成長を加速させることに成功しています。
経営判断において最も難しいのは「捨てる決断」です。しかし、企業が長期的に成長し続けるためには、時に思い切った決断が必要になります。不採算部門の切り離しは、企業全体を救う「外科手術」なのです。客観的なデータと冷静な分析に基づいた判断こそが、真の経営力と言えるでしょう。
【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸
公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了