不採算部門との決別が会社を救う – 実行支援型コンサルの現場から

経営改革を迫られる現代のビジネス環境において、不採算部門の存続は企業の将来を左右する重大な問題です。「赤字部門はなんとか頑張れば良くなる」「長年続けてきた事業だから簡単に手放せない」といった感情的な判断が、企業全体の成長を妨げているケースを数多く目にしてきました。
私は実行支援型コンサルタントとして、多くの企業の経営改革に携わってきましたが、思い切った「選択と集中」によって劇的な業績回復を遂げた企業が数多く存在します。本記事では、不採算部門との決別がどのように企業を救うのか、実際の成功事例をもとに解説します。
売上が30%も増加した企業の戦略とは何だったのか?赤字部門を切り捨てるべき具体的な理由とは?そして何より重要な、不採算部門の見極め方と円滑な撤退のステップについて、経営者の皆様に役立つ情報をお届けします。経営判断に迷われている方々にとって、この記事が新たな視点をもたらす一助となれば幸いです。
1. 赤字部門を切り捨てるべき理由と成功事例 – 経営改革の秘訣を解説
企業経営において、すべての部門が利益を生み出しているわけではありません。多くの企業が抱える「不採算部門」は、会社全体の収益性を大きく下げる要因となっています。「伝統があるから」「従業員の雇用を守るため」という理由で赤字部門を存続させ続けた結果、企業全体が倒産の危機に直面するケースは少なくありません。
実際、日本企業の多くは「選択と集中」の決断が遅れがちです。ある製造業では、10年以上赤字が続く海外事業を「将来性がある」という理由だけで維持し続け、最終的に本業まで圧迫して経営危機に陥りました。
一方、思い切って不採算部門から撤退した企業の成功事例も多数存在します。ソニーは赤字続きだったPC事業「VAIO」を売却し、コア事業への集中を実現。コニカミノルタもカメラ事業から撤退して事務機器へ注力し、大きな成長を遂げました。こうした決断は短期的には痛みを伴いますが、長期的な企業価値向上に不可欠です。
不採算部門の見極め方には、単純な損益だけでなく、「事業の将来性」「他部門とのシナジー効果」「撤退コスト」などの多角的視点が重要です。アクセンチュアのリサーチによれば、計画的な事業ポートフォリオの見直しを行う企業は、そうでない企業に比べて平均22%高い株主リターンを実現しています。
実行支援型コンサルティングの現場では、感情論ではなくデータに基づいた冷静な判断と、経営陣の強い決断力が成功の鍵となっています。「すべてを守る」よりも「核心部分を強化する」戦略へのシフトが、多くの企業を再生へと導いているのです。
2. 「不採算事業からの撤退」で売上30%増を実現した企業の戦略とは
不採算事業にしがみつき続ける日本企業は少なくありません。「長年続けてきた事業だから」「従業員の雇用を守るため」という理由で、赤字部門を抱え続けた結果、会社全体の体力を奪っているケースを数多く目にしてきました。
今回ご紹介するのは、電子部品製造業を営むA社の事例です。同社は5つの事業部門を持っていましたが、そのうち2つの部門が慢性的な赤字状態に陥っていました。創業以来40年続けてきた事業だったため、経営陣は「いずれ回復する」と信じて赤字を垂れ流し続けていたのです。
しかし、財務分析の結果、驚くべき事実が判明しました。全体の売上の15%に過ぎない2つの不採算部門が、会社の営業利益の40%を食い潰していたのです。この状況を放置すれば、3年以内に資金ショートする可能性が高いという厳しい現実がありました。
A社が取った戦略は明快でした。
1. 不採算事業の完全撤退と資産売却
赤字部門を思い切って閉鎖し、工場や設備を売却。これにより約2億円の現金を確保しました。
2. 人材の再配置
不採算部門で働いていた技術者・営業担当者を、成長している3つの部門に再配置。これにより新たな視点や技術が注入され、製品開発のスピードが向上しました。
3. 経営資源の集中投下
本来なら赤字補填に使われていた資金を、成長部門の研究開発や営業強化に集中投資。特に海外展開を加速させました。
この決断から1年後、A社の業績は驚くべき変化を見せました。売上高は一時的に15%減少したものの、営業利益は2.5倍に拡大。さらに2年目には残った3部門の成長により、撤退前と比較して売上は30%増加、営業利益は4倍になったのです。
不採算事業からの撤退で最も難しいのは「従業員の処遇」ですが、A社では再配置を基本方針とし、希望退職は最小限に抑えました。結果として社内のモチベーションも向上し、「伸びる会社」という評判が広がり、優秀な人材の採用にも好影響を与えています。
ビジネスの本質は「選択と集中」にあります。すべての事業を続けることは「何も選択していない」のと同じです。勇気ある決断が、企業の命運を分けるのです。
3. 経営者必見!不採算部門の見極め方と円滑な撤退のステップ
経営者として最も難しい決断の一つが「不採算部門からの撤退」です。感情的な愛着や社内の反発を恐れて先送りにしがちですが、この決断の遅れが企業の命取りになることも少なくありません。デロイトの調査によれば、不採算事業を適切に整理した企業は、その後3年間で平均20%以上の利益向上を達成しています。では具体的に、不採算部門をどう見極め、どのように撤退すべきでしょうか。
まず不採算部門の見極め方として、5つの指標を確認しましょう。①3期連続で部門単体の営業利益率が5%未満、②市場の成長率が業界平均を大きく下回る、③自社の強みが活かせない領域である、④経営資源を投入しても改善の見込みが薄い、⑤全社戦略との整合性が低い—これらの項目に3つ以上当てはまる場合、撤退を真剣に検討すべきタイミングです。
撤退を決断したら、以下の6ステップで進めることをお勧めします。
1. 撤退計画の策定:明確なタイムラインと責任者を設定
2. 関係者への説明:取引先、社員、株主への丁寧な説明準備
3. 法的・契約的義務の整理:違約金や保証などの確認
4. 人材の再配置計画:異動可能なポジションの創出
5. 資産の処分計画:遊休資産化を防ぐ迅速な処理
6. フォローアップ体制:撤退後の不測の事態への対応準備
実際に日本電産は創業者の永守重信氏のリーダーシップのもと、定期的に「収益性診断」を実施。ROI5%未満の事業は徹底的に見直し、改善されなければ迅速に撤退する方針を貫いてきました。この「選択と集中」が同社の高収益体質を支えています。
撤退時に最も重要なのは「ブランド毀損」と「社内士気低下」への対応です。これには経営陣による「なぜ撤退するのか」「会社の未来にどう繋がるのか」の明確なビジョン提示が不可欠です。マッキンゼーの調査では、撤退理由と将来ビジョンを明確に説明した企業は、社員の離職率が30%以上低かったというデータもあります。
不採算部門からの撤退は企業の「痛み」ではなく「再生への投資」と捉えましょう。この決断と実行が、企業の持続的成長への第一歩となるのです。
【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸
公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了