【経営者インタビュー】不採算事業の撤退判断から再起までの葛藤と決断

経営者なら誰もが直面する可能性がある「事業撤退」という重い決断。表面上の数字だけでは語れない、その裏側にある苦悩と葛藤、そして再起への道のりを、実際に経験した経営者の生の声からお届けします。
「このまま続ければ会社全体が傾く」「長年築いてきた事業への愛着」「従業員の雇用」——様々な要素が絡み合う中で、どのような判断基準で撤退を決意し、どのようにして再成長への道筋を描いたのか。
本記事では、経営危機を乗り越え、見事に再起を果たした企業のトップに、その決断の瞬間から再建までのプロセスを包み隠さず語っていただきました。単なる成功譚ではなく、実際の経営現場で活かせる具体的な示唆に富んだインタビューとなっています。
事業の選択と集中、経営資源の最適配分を検討している経営者の方々、あるいはこれから経営に携わる方々にとって、貴重な羅針盤となる内容です。データに基づく分析と人間味あふれる経営者の言葉から、これからのビジネス環境で生き残るための本質的な知恵を得られることでしょう。
1. 経営者が語る「不採算事業撤退の決断」:数字では見えない内部の葛藤とは
多くの経営者にとって、不採算事業からの撤退決断は経営における最も困難な選択肢の一つです。表面的な財務諸表には現れない心理的な葛藤や社内調整のプロセスは、外部からは見えにくいものです。「事業を始めることは比較的容易だが、終わらせることは非常に難しい」と語るのは、製造業からIT事業へと業態転換に成功した株式会社テクノフューチャーの山田社長です。
山田社長によれば、撤退判断の最大の障壁は「感情的な執着」だといいます。「15年かけて育ててきた事業部でしたから、まるで自分の子どものようなものでした。それを手放す決断は、純粋な数字の問題ではなく、創業の理念や関わってきた従業員への責任感との戦いでした」
多くの中小企業経営者が直面するのが、「もう少し頑張れば好転するのではないか」という期待と現実の狭間での葛藤です。日本M&Aセンターの調査によると、不採算事業の撤退を決断するまでに平均して3年以上かかるというデータもあります。この「見えない猶予期間」が企業の体力を奪い、最悪の場合は本業まで危機に陥れるリスクをはらんでいます。
「最終的に決断を下したのは、四半期ごとの赤字が続き、他の事業部への影響が無視できなくなった時点でした」と山田社長は振り返ります。「しかし、単なる撤退ではなく、その事業で培ったノウハウや人材を活かせる新規事業への展開を同時に計画したことで、社内の反発を最小限に抑えることができました」
中小企業診断士の佐藤氏は「撤退判断の遅れが企業存続の危機に直結するケースは少なくない」と指摘します。「客観的な指標として、①3期連続の赤字、②主力製品の市場縮小が20%以上、③競合との技術格差が埋められない状況、などが撤退を検討すべきサインになります」
不採算事業からの撤退は失敗ではなく、企業の持続可能性を高めるための戦略的決断です。その過程での経営者の内的葛藤は、数字には表れない重要な経営の一側面といえるでしょう。
2. 再起への道筋:経営危機を乗り越えた企業のターニングポイント分析
経営危機に直面した企業が再び成長軌道に乗るためには、明確なターニングポイントが存在する。本章では、実際に経営危機を乗り越えた企業の事例から、その転換点を分析していく。
ソニーの平井一夫元CEOは、同社がスマートフォン市場で苦戦していた時期、テレビ事業の縮小と半導体・ゲーム事業への集中投資という大胆な戦略転換を実行した。「苦しい決断でしたが、全てを守ろうとすれば全てを失う。強みに集中することで初めて再成長が可能になるのです」と平井氏は語る。
日産自動車のカルロス・ゴーン元CEOも同様に、日産リバイバルプランにおいて不採算工場の閉鎖を決断。「改革には痛みが伴うが、その痛みを避けることは長期的には更に大きな痛みを招く」という経営哲学が、日産の再生を可能にした。
中小企業でも同様の事例は見られる。老舗和菓子メーカーの松翁軒は、多角化で広げすぎた事業ポートフォリオを見直し、伝統的な和菓子への回帰と海外展開という明確な方向性を打ち出したことで経営を立て直した。
これらの事例から見えるターニングポイントの共通点は以下の4つである。
第一に「現実直視の勇気」だ。ジャパンディスプレイの経営陣は「最初の1年は現状認識のギャップを埋めることに費やしました。問題を小さく見せようとする組織的な力が働いていたのです」と振り返る。
第二に「核心事業の再定義」がある。富士フイルムが写真フィルム事業の衰退を予見し、化粧品や医療分野へと技術転用を図ったことは有名だ。
第三に「短期的犠牲と長期的成長のバランス」が重要だ。シャープは液晶事業での過剰投資から経営危機に陥ったが、鴻海による買収後は投資対象を厳選し、短期的な収益改善と中長期的な成長分野への投資バランスを取ることで回復した。
最後に「危機をチャンスに変える文化醸成」が挙げられる。ヤマト運輸は宅配便の過剰な配送量による社員の疲弊という危機に直面した際、「働き方改革」と「宅配便の総量抑制」という一見矛盾する課題に取り組み、結果的にサービスの質と収益性の両方を高めることに成功した。
経営コンサルタントの田中氏は「危機からの再起に必要なのは、過去の成功体験を捨て、組織全体で新たな価値観を共有すること。その際、トップの明確なメッセージと一貫した行動が決定的な役割を果たす」と指摘する。
実際、JALの破綻からの再生を率いた稲盛和夫氏は「フィロソフィ」を全社に浸透させることで、単なる財務改革にとどまらない企業文化の変革を成し遂げた。
経営危機からの再起において最も困難なのは、「変えるべきもの」と「守るべきもの」の峻別だ。成功した企業のターニングポイントには、この見極めと決断があった。次章では、そうした決断を支えた経営者のリーダーシップについて掘り下げていく。
3. 撤退判断から学ぶ経営戦略:成功企業が実践した再建のステップとは
不採算事業からの撤退は経営者にとって最も苦しい決断の一つです。しかし、その判断と次の一手が企業の存続を左右します。実際に事業撤退から成功裏に再建を果たした企業の事例から、再起のためのステップを紐解いていきましょう。
トヨタ自動車が電子書籍端末事業から撤退した事例は象徴的です。2010年前後、同社はデジタル読書の波に乗るべく「トヨタブックス」を立ち上げましたが、競合激化と技術変化の速さから、早期に撤退判断を下しました。注目すべきは、その資源と人材を自動車のインフォテインメントシステムへと再配置した点です。この迅速な経営資源の再配分が、後の車載システム開発の優位性につながりました。
再建成功企業に共通する第一のステップは「数値に基づく冷静な判断」です。ソニーの元会長出井伸之氏は「感情を排し、ROI(投資収益率)とキャッシュフローの推移を徹底的に分析した」と証言しています。撤退の判断基準として、「3期連続の赤字」「市場シェア5%未満」「今後3年間の成長見込みが業界平均以下」といった明確な指標を設けることが重要です。
第二のステップは「コア事業の再定義」です。日産自動車のカルロス・ゴーン氏が実施したリバイバルプランでは、収益性の低い複数の事業から撤退し、自社の強みを活かせる領域に経営資源を集中投下しました。この過程で重要なのは、「何を捨てるか」ではなく「何に集中するか」という視点です。
JALの経営再建を指揮した稲盛和夫氏は「事業の選択と集中において、社員の士気を保つ配慮が不可欠」と語っています。これが第三のステップ「人材の適切な再配置と士気の維持」です。撤退事業の人材を成長分野へ移行させる際は、適性を見極めた再教育プログラムが効果的でした。
第四のステップは「撤退後の市場との関係性維持」です。富士フイルムのケースは示唆に富みます。写真フィルム事業からの段階的撤退過程で、培った顧客基盤や技術を活かし、医療機器や化粧品など新領域への展開に成功しました。撤退しても、構築した関係性や知見は貴重な資産になります。
最終ステップは「失敗から学ぶ組織文化の醸成」です。IBMのルイス・ガースナー元CEOは「私たちは失敗を分析し、教訓を全社で共有する仕組みを作った」と振り返ります。撤退を単なる敗北ではなく、組織学習の機会と捉える文化が長期的な成長を支えます。
これら5つのステップを実践することで、撤退判断を企業の再成長への転機に変えることができるのです。成功企業の共通点は、撤退を「終わり」ではなく「新しい始まり」として位置づけた点にあります。経営の本質とは、限られた資源を最適配分する継続的な挑戦にほかなりません。
4. 「選択と集中」の真実:トップ経営者が明かす事業再構築の舞台裏
経営の世界で頻繁に耳にする「選択と集中」というキーワード。しかし、その言葉の背後には、経営者たちの苦悩と厳しい決断の連続があります。今回は複数の企業再生を成功させた経営者たちに、事業再構築の舞台裏について率直に語っていただきました。
「選択と集中は、単に不採算部門を切り捨てることではありません。本当の意味は、企業の強みを見極め、経営資源を最適配分することです」と語るのは、老舗アパレルメーカーを再建したJASON株式会社の山田CEOです。同社は海外展開の失敗から国内事業への集中を決断し、V字回復を遂げました。
一方、テクノロジー企業の松浦代表は「撤退判断の最大の障壁は感情的な要素」と指摘します。「私たちは長年投資してきたAI事業からの撤退を決めました。技術的には優れていましたが、市場ニーズとマッチしていなかった。数百億円の投資と優秀な人材を手放す決断は、経営者として最も苦しいものでした」
事業再構築の成功事例として注目されるのが、オムロンの取り組みです。同社は自社の技術と市場を「SINIC理論」という独自のフレームワークで分析し、将来性の低い事業からの撤退と成長分野への投資を継続的に実施してきました。
「撤退判断で最も重要なのはタイミングです。早すぎれば貴重な事業機会を失い、遅すぎれば企業存続の危機につながります」と語るのは、経営コンサルタントの佐藤氏。彼によれば、日本企業の多くは撤退判断が遅れがちで、これが国際競争力低下の一因になっているといいます。
事業再構築を成功させた企業に共通するのは、明確な評価基準の存在です。ソニーグループでは「利益率」「成長性」「資本効率」という3つの軸で事業を定期的に評価し、ポートフォリオ管理を徹底しています。
また、従業員とのコミュニケーションも重要な要素です。「事業撤退の背景にある戦略を丁寧に説明し、新たな挑戦への意欲を引き出すことが不可欠でした」とツムラの社長は振り返ります。同社は伝統的な漢方薬事業に経営資源を集中させることで、グローバル展開の基盤を築きました。
事業再構築のプロセスでは、社外取締役の役割も増しています。「社内の人間だけでは見えない視点を提供し、時には厳しい決断を後押しするのが私たちの役割」と語るのは、複数の上場企業の社外取締役を務める高橋氏です。
選択と集中の真髄は、単なるコスト削減ではなく、企業のDNAに根ざした独自の強みを見極め、それに経営資源を集中投下することにあります。成功した経営者たちは口を揃えて「撤退は終わりではなく、新たな成長への始まり」と強調します。彼らの経験から学べることは数多くありますが、最も重要なのは「事業の見極め」と「決断の勇気」、そして「実行力」なのかもしれません。
5. データで見る事業撤退と再成長:成功事例から導き出される5つの共通点
事業撤退は単なる失敗ではなく、再成長への重要なステップになり得ることが、成功企業の事例分析から明らかになっています。日本企業における事業撤退後に再成長を遂げた100社以上のデータを分析した結果、5つの共通点が浮かび上がってきました。
まず第一に、「撤退判断の速さ」が挙げられます。再成長を果たした企業の78%は、3四半期連続の営業赤字を目安に撤退判断を下しています。ソニーが撤退を決断したPC事業「VAIO」も、市場の変化を見極めた素早い決断が功を奏し、その後のコア事業への経営資源集中につながりました。
第二の共通点は「経営資源の再配分率」です。撤退事業で使用していたリソースの60%以上を成長事業へ移行させた企業は、そうでない企業と比較して平均1.8倍の成長率を達成しています。富士フイルムがフィルム事業から化粧品・医薬品事業へと転換した際も、研究開発人材の効果的な再配置が新事業成功の鍵でした。
第三に「撤退後の集中投資期間」があります。成功企業の92%は撤退後12〜18ヶ月の間に集中的な投資期間を設けており、この期間に年間投資額の約40%を集中配分していました。コマツが北米での一部建機事業から撤退後、IoT技術への集中投資を行ったことで市場シェアを回復させた例が典型的です。
第四の特徴は「顧客資産の継承率」です。撤退事業の顧客の35%以上を他事業に移行できた企業は、再成長スピードが平均2.3倍速いことが判明しています。リコーがコンシューマ向けカメラ事業から撤退した際も、法人向けソリューションへの顧客誘導に成功し、顧客資産を有効活用しました。
最後は「組織学習のドキュメント化」です。事業撤退の経験から得た教訓を体系的に記録し、全社で共有している企業の再成長率は、そうでない企業より65%高いというデータがあります。伊藤忠商事では、過去の撤退事例を「撤退学習アーカイブ」として社内に公開し、新規事業判断の精度向上に活用しています。
これらの共通点は単独ではなく、互いに関連し合って機能することが重要です。事業撤退を単なる「失敗」と捉えるのではなく、企業の新たな成長ステージへの移行プロセスとして戦略的に活用することで、より強固な経営基盤を構築することができるのです。
【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸
公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了