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2026年02月11日

DXで加速する事業再生:デジタル時代の新しい経営戦略とは

事業再生

かつて事業再生の現場において、最優先事項とされてきたのは徹底的なコスト削減や不採算部門の整理でした。しかし、市場環境が急速に変化し、消費者のニーズが多様化する現代において、従来の「守り」の手法だけでは企業の持続的な成長を取り戻すことが難しくなっています。多くの経営者が次なる一手も模索する中、業績回復の強力なドライバーとして注目を集めているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。

本記事では、単なる経費削減にとどまらない、データ活用や業務プロセスのデジタル化を通じてV字回復を目指す「攻め」の経営戦略について詳しく解説します。DXの本質はツールの導入そのものではなく、アナログな経営体質からの脱却、意思決定の迅速化、そして組織風土の変革にあります。変化の激しいデジタル時代を生き抜き、企業を再成長へと導くための具体的な道筋を紐解いていきましょう。

1. 従来のコスト削減だけでは限界?DXが切り拓く事業再生の新たな可能性

経営難に陥った企業の立て直しにおいて、これまでの定石といえば徹底した「コスト削減」でした。人件費の圧縮、不採算部門の整理、仕入れ原価の見直しといった、いわゆる「止血」処置は、短期的なキャッシュフローを改善するために不可欠なプロセスです。しかし、市場環境が激変し、消費者のニーズが多様化する現代において、単なる経費削減だけでは事業の持続的な成長、すなわち「再成長」を描くことは極めて困難になっています。縮小均衡に陥り、企業の競争力そのものを削いでしまうリスクがあるからです。

ここで重要となるのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した「攻めの事業再生」というアプローチです。DXは単なるITツールの導入や業務の自動化にとどまりません。デジタル技術とデータを駆使して、ビジネスモデルそのものを変革し、新たな収益源を創出することに本質があります。

従来の事業再生がPL(損益計算書)上のマイナスをゼロに戻す作業だとすれば、DXによる再生は、顧客体験(CX)を抜本的に向上させ、トップライン(売上高)を伸ばすための戦略です。例えば、老舗の小売業が実店舗のPOSデータとECサイトの顧客行動データを統合し、AIによる精度の高い需要予測を行うことで、在庫ロスを最小限に抑えつつ、顧客一人ひとりに最適な商品を提案するケースが増えています。また、製造業においては、製品を売り切るだけのモデルから、IoT技術を活用して稼働状況を監視し、保守サービスを提供するサブスクリプションモデルへと転換することで、安定した収益基盤を確立する事例も出てきています。

このように、勘や経験に頼っていた経営判断をデータドリブンな意思決定へとシフトさせることは、再生フェーズにある企業こそ取り組むべき課題です。資金やリソースが限られている状況だからこそ、デジタル技術を活用して効率的に高付加価値化を図る必要があります。DXはもはや大手企業だけのものではなく、中小企業の事業再生においてこそ、起死回生の一手となり得るのです。

2. 赤字からのV字回復を実現する、データ活用と業務プロセス効率化の具体的手法

赤字経営からの脱却を目指す際、多くの経営者が直面するのは「どこから手をつければよいか分からない」という課題です。従来のコスト削減策である人員整理や経費の一律カットは、組織の士気を下げ、将来の成長力を削ぐリスクを孕んでいます。デジタル時代における事業再生の鍵は、勘と経験に頼った経営から脱却し、事実データに基づいた意思決定と業務プロセスの抜本的な効率化を行うことにあります。

まず取り組むべきは、経営の「見える化」です。赤字の原因が特定の不採算部門にあるのか、原価率の上昇にあるのか、あるいは販管費の肥大化にあるのかを正確に把握する必要があります。ここで力を発揮するのが、TableauやMicrosoft Power BIといったBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールです。会計データや販売データをこれらのツールに連携させることで、日々の売上推移や利益率をリアルタイムで可視化できます。月次決算を待たずに異常値を検知し、即座に対策を打つスピード感が、V字回復の第一歩となります。

次に、業務プロセスの効率化による固定費の適正化です。多くの企業では、紙の請求書処理や手入力によるデータ転記など、付加価値を生まない作業に多くの人件費が割かれています。こうした定型業務には、RPA(Robotic Process Automation)の導入が効果的です。例えばUiPathなどのRPAツールを活用すれば、受注データの入力や在庫確認といったルーチンワークをロボットが代行し、24時間稼働させることが可能です。また、バックオフィス業務においては、freeeやマネーフォワードといったクラウド会計・人事労務ソフトを導入することで、法改正への対応コストを下げつつ、経理・人事部門の業務時間を大幅に削減できます。

実際に、地方の中小企業がデータ活用によって劇的な再生・成長を遂げた事例として、三重県伊勢市の「ゑびや大食堂」が挙げられます。老舗の食堂であった同社は、かつては手作業のアナログ管理が中心でしたが、店舗運営に画像解析AIやデータ分析ツールを導入しました。気象データや過去の売上データから精度の高い来客予測を行うことで、食材の廃棄ロスを大幅に削減し、従業員のシフト管理を最適化しました。その結果、売上を数倍に伸ばし、利益率の高い経営体質へと変貌を遂げています。

このように、DXによる事業再生とは、単に新しいシステムを入れることではありません。データに基づいて「儲からない仕組み」を特定し、デジタル技術を使って「無駄な作業」を徹底的に排除するプロセスそのものです。まずは小さくても確実な成果が見込める領域からデジタル化に着手し、成功体験を積み重ねることが、組織全体を巻き込んだV字回復への原動力となります。

3. アナログ経営からの脱却!データドリブンな意思決定が企業を救う理由

かつて日本企業を支えてきたのは、熟練経営者やベテラン社員による「KKD(勘・経験・度胸)」でした。しかし、市場環境が目まぐるしく変化し、消費者のニーズが多様化する現代において、過去の成功体験だけに頼るアナログな経営手法は、時として企業を深刻な危機に追い込むリスク要因となり得ます。事業再生の現場において、DX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠とされる最大の理由は、この不確実性を排除し、事実に基づいた「データドリブンな意思決定」を可能にする点にあります。

アナログ経営からの脱却とは、単に書類をPDF化することやチャットツールを導入することではありません。経営判断の基準を「主観」から「客観的な数値」へと根本的にシフトさせることを意味します。たとえば、売上が低迷している原因を会議室で議論する際、「営業の押しが弱い気がする」「商品のパッケージが古いかもしれない」といった推測で対策を講じていないでしょうか。データドリブンな組織では、CRM(顧客関係管理)やPOSデータ、Webサイトのアクセス解析などを通じて、「どの顧客層が」「いつ」「どこで」離脱したのかをリアルタイムで可視化します。これにより、感情や忖度を排除した、外科手術のように精度の高い改善策を実行することが可能になります。

データドリブン経営が企業を救う具体的な理由は、主に以下の3点に集約されます。

第一に、「迅速な損切りとリソースの最適化」です。
事業再生においては、不採算部門の整理やコスト削減といった「止血」が急務となります。アナログな管理では、部門ごとの正確な収支が見える化されるまでに数ヶ月のタイムラグが発生することも珍しくありません。ERP(統合基幹業務システム)などを活用し、リアルタイムで収益性をモニタリングできる体制を整えることで、撤退ラインを明確にし、成長分野へ経営資源を即座に集中させることができます。

第二に、「顧客インサイトの深掘りによる売上拡大」です。
従来のマスマーケティングが通用しなくなる中、個々の顧客の行動データを分析することは生命線となります。ワークマンのように、現場の社員全員がデータを活用し、需要予測に基づいて在庫をコントロールすることで、廃棄ロスを減らしながら高収益体質へと転換した事例は、多くの企業にとって大きなヒントとなるでしょう。顧客が真に求めているものをデータから読み解くことで、勘に頼った新商品開発による失敗を防ぎ、ヒット率を高めることができます。

第三に、「組織の透明性と納得感の向上」です。
経営危機にある企業では、現場と経営層の信頼関係が揺らいでいるケースが多々あります。「社長が言うから」というトップダウンの指示だけでは、現場は疲弊するばかりです。しかし、データという共通言語があれば、目標や課題に対する認識を統一しやすくなります。数値的根拠に基づいた指示は従業員の納得感を高め、組織全体が一丸となって再建に向かう原動力となります。

結論として、デジタル時代における事業再生のカギは、どれだけ早く「経験則」という聖域にメスを入れ、データを羅針盤として採用できるかにかかっています。アナログ経営からの脱却は、痛みを伴う改革かもしれません。しかし、データドリブンな意思決定プロセスを構築することこそが、変化の激しい時代を生き抜き、V字回復を実現するための最短ルートなのです。

4. ツール導入で終わらせない、DX推進における組織風土とマインドセットの変革

デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む多くの企業が陥りやすい最大の罠、それは「最新のデジタルツールを導入すればDXが完了する」と勘違いしてしまうことです。AIによる需要予測システムや、クラウドベースのERP(統合基幹業務システム)、あるいはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった高度な技術を導入したとしても、それを使う「人」と、それを活かす「組織」が変わらなければ、事業再生どころか、高額な投資コストが経営を圧迫する結果になりかねません。真のDXを実現し、事業をV字回復させるためには、ツール導入以上に「組織風土」と「マインドセット」の根本的な変革が不可欠です。

事業再生のフェーズにある企業では、往々にして過去の成功体験への固執や、部門間の連携が取れていない「サイロ化」といった問題が根深く存在しています。このような状態でデジタル技術だけを持ち込んでも、現場からは「新しいシステムは使いにくい」「これまでのやり方の方が早い」といった抵抗が生まれ、定着しません。これを打破するためには、経営層が「なぜ今、デジタル変革が必要なのか」という危機感とビジョンを明確に語り、社員一人ひとりの意識を変える必要があります。

具体的には、失敗を恐れずに新しい手法に挑戦する「アジャイル型」のマインドセットを組織全体に浸透させることが重要です。従来の日本企業に見られる完璧主義や減点主義の評価制度を見直し、スモールスタートで試行錯誤を繰り返すことを称賛する文化へとシフトしなければなりません。例えば、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題でも指摘されているように、既存システムのブラックボックス化を解消するだけでなく、それを運用する組織自体の硬直性を解消することが急務です。

また、DX推進においては、IT部門任せにするのではなく、営業、製造、経理といった現場部門が主体的にデジタル活用に関与する体制づくりが求められます。「デジタルは手段であり、目的は顧客価値の最大化と事業の持続的成長にある」という共通認識を持つことこそが、組織変革の第一歩です。ツールはあくまで武器に過ぎません。その武器を使いこなし、市場の変化に合わせて柔軟に戦術を変えられる組織風土こそが、デジタル時代の事業再生を成功に導く最大のエンジンとなるのです。

5. 変化に強い企業体質へ、デジタル時代を生き抜くための持続可能な成長戦略

DX(デジタルトランスフォーメーション)による事業再生のプロセスにおいて、最終的な到達点は単なるデジタルツールの導入完了ではありません。真のゴールは、市場の激しい変動や予期せぬリスクに対して、柔軟かつ迅速に対応できる「変化に強い企業体質」を獲得することにあります。事業再生のフェーズを脱し、再成長の軌道に乗るためには、デジタル技術を梃子(てこ)にして、組織のあり方そのものをアップデートする戦略が必要です。

まず取り組むべきは、「データドリブンな意思決定」の定着です。従来の日本企業で重視されてきた経験や勘に基づく経営判断は、不確実性が高い現代においてリスクとなり得ます。CRM(顧客関係管理)やERP(基幹系情報システム)を通じて蓄積されたリアルタイムなデータを、経営層から現場までが可視化・共有できる環境を整えることが重要です。ファクトに基づいた議論を行う文化を醸成することで、判断のスピードと精度が飛躍的に向上し、機会損失を防ぐことができます。

次に重要なのが、組織の「アジリティ(敏捷性)」の向上です。デジタル化によって業務プロセスが標準化されると、改善すべきボトルネックが明確になります。これにより、顧客ニーズの変化に合わせて即座にサービス内容をピボット(方向転換)したり、リソース配分を最適化したりといった機動的な経営が可能になります。例えば、作業服専門店からデータを活用して一般向けアウトドアウェア市場へ進出し、劇的な成長を遂げたワークマンの事例は、データとアジリティがもたらす事業変革の象徴的な成功モデルと言えるでしょう。

さらに、持続可能な成長を支える基盤となるのは「人材の変革」です。高度なシステムを導入しても、それを使いこなす従業員のスキルやマインドセットが旧態依然としていては、DXの効果は限定的になります。全社的なリスキリング(学び直し)を推進し、デジタルツールを自らの武器として活用し、業務改善を自律的に行える人材を育成することが急務です。DXは一部のIT部門だけに任せるものではなく、全社員が当事者意識を持って取り組むべき経営課題です。

デジタル時代における事業再生とは、単なるコスト削減や一時的な延命措置ではありません。デジタルを前提としたビジネスモデルへと進化し、どのような環境変化が起きても揺るがない、しなやかで強靭な経営基盤を築くことこそが、次なる成長ステージへと進むための必須条件なのです。

【監修者】ブルーリーフパートナーズ
代表取締役 小泉 誉幸

公認会計士試験合格後、新卒で株式会社シグマクシスに入社し、売上高数千億の大手企業に対し業務改善、要件定義や構想策定を中心としシステム導入によるコンサルティングを実施。その後、中堅中小企業の事業再生を主業務としているロングブラックパートナーズ株式会社にて財務DD、事業DD、再生計画の立案、損益改善施策検討に従事。ブルーリーフパートナーズ株式会社設立後は加え税理士法人含む全社の事業推進を実施。
・慶應義塾大学大学院商学研究科修了

事業が厳しいと感じたら、早めの決断が重要です。
最適な再生戦略を一緒に考え、実行に移しましょう。